SX-150 の VCO の温度補償 (10) -- Q902 のベース電流補償 (3)

まず、「OP-07」方式の変形を下に示します。
これは、電流のコピーと 1/h_{\rm FE} 倍する順番を入れ替えたものです。

まず、PNP トランジスタ Q904、Q905 で構成されるカレント・ミラーで Q902 のコレクタ電流のコピーを電流の向きを反転しながら作成します。
次に Q902 とはコンプリメンタリ・ペアとなる PNP トランジスタ Q906 のベース電流として、1/h_{\rm FE(Q906)} 倍された電流を得ています。
もとの「OP-07」の回路とは違って、h_{\rm FE} をそろえるべきトランジスタが NPN/PNP のコンプリメンタリ・ペアとなっています。
しかし、この場合、ベース電流補償が問題となる電流領域内で h_{\rm FE} がそろっていれば良く、他の特性は影響しません。
したがって、それほどペア組みが困難ということにはなりません。
次は別の方式です。

左の図のように、「OP-07」方式での NPN トランジスタ Q903 をコンプリメンタリの PNP トランジスタ Q904 で置き換えれば、

  • コレクタ電流のコピー
  • 1/h_{\rm FE}
  • 電流の向きの反転

をいっぺんに実現できます。
ここで、点線のように、Q904 と Q902 のベースを接続したいところですが、そううまくは行きません。
Q904 のベース電圧は
\qquad V_{\rm B(Q904)} = V_{\rm CC} \, - \, V_{\rm BE}
Q902 のベース電圧は
\qquad V_{\rm B(Q902)} = V_{\rm E(Q901)} \, + \, 2 \cdot V_{\rm BE}
ですから、直接つなぐわけには行きません。
そこで下の図のように、PNP トランジスタ Q905 を介してつなぎます。

実は、Q904 と Q905 は、 PNP トランジスタによる「 V_{\rm BE} 依存電圧源回路」になっています。
これは、アンチログ回路本体の Q901 と Q902 の関係と同じです。
この「 V_{\rm BE} 依存電圧源回路」を利用すると、I_{\rm C(Q901) に残る V_{\rm BE} 由来の温度依存性を除去することができます。
I_{\rm C(Q901)} を式で表すと、
\qquad \begin{eqnarray*}I_{\rm C(Q901)} &=& (V_{\rm CC} - 2 \cdot V_{\rm BE} - V_{\rm E(Q901)})/R_{902} - I_{\rm B(Q902)}\\&=&(V_{\rm CC} - V_{\rm E(Q901)})/R_{902}\\&-&(2 \cdot V_{\rm BE}/R_{902}+I_{\rm B(Q902)})\end{eqnarray*}
となります。
この式の最後の項の前半は
\qquad 2 \cdot V_{\rm BE}/R_{902} = \frac{V_{\rm BE}}{R_{902}/2
となりますから、V_{\rm BE} の電位差が生じている V_{\rm CC} と Q904 のベース (= Q905 のエミッタ) との間に R902 の半分の抵抗値の抵抗をつないでやれば、Q902 のベース電流の補償分に、この分の電流を上乗せすることができます。
厳密に言えば、各トランジスタのコレクタ電流が違うので、各 V_{\rm BE} の絶対値は異なりますが、約 -2 mV/℃ の温度特性は同様ですから、式から V_{\rm BE} の項が除去できれば温度特性は改善できます。

結局、この補正を加えると左の図のようになります。
この回路でも、アンチログの入力電圧である V_{\rm E(Q901)} 自体による I_{\rm C(Q901)} の変化は補償できません。