SX-150 の VCO の温度補償 (9) -- Q902 のベース電流補償 (2)

前回述べたように、ベース電流補償はリセット型 VCO の高域補償に振り替えて行うことができます。
これから述べるアンチログ回路内部でのベース電流補償は、温度特性が良好な方式では追加のトランジスタを2個以上必要とするので、実用的な価値は低いかも知れませんが、もっぱら、回路的な興味で取り上げます。
まず、Q902 のベース電流 I_{\rm B(Q902)} に対する関係のおさらいです。

R902 に流れる電流 I_{\rm (R902)} は Q901 のコレクタ電流 I_{\rm C(Q901)} とQ902 のベース電流 I_{\rm B(Q902)} に分かれて流れます。
式で示すと、
\qquad I_{\rm (R902)} = I_{\rm C(Q901)} + I_{\rm B(Q902)}
となります。
このベース電流分が誤差となります。
また、Q902 の電流増幅率を h_{\rm FE(Q902)} とすれば、
\qquad I_{\rm B(Q902)} = \frac{I_{\rm C(Q902)}}{h_{\rm FE(Q902)}}
となります。
さて、ベース電流の補正のためには、何とかしてベース電流のコピーを作り出し、ベース電流とは逆の向きでベース端子に流し込めばベース電流の寄与をキャンセルできます。
回路動作に影響を与えずにベース電流を検出することは難しいので、代わりにコレクタ電流の値を使います。
まとめると、

  • コレクタ電流のコピー
  • それを h_{\rm FE(Q902)} 分の1にしてベース電流相当分を作り出す
  • それをベース電流とは逆向きにしてベース端子に流し込む

という操作を行えばいいことになります。

それぞれの操作の順序と実現方法によって、何種類かの回路方式が考えられますが、下の図に示す方式は、高精度バイポーラ OP アンプである「OP-07」ファミリで、入力バイアス電流を補償するために使われているものです。

NPN トランジスタ Q903 と、 PNP トランジスタ Q904, Q905 とを追加します。
前提として、Q902 と Q903 のペア、および Q904 と Q905 のペアのトランジスタは特性がそろっているものとします。
Q903 は Q902 のコレクタの回路に挿入してあるので、Q903 のベース電流を無視すると、
\qquad I_{\rm C(Q902)} = I_{\rm C(Q903)}
が成り立ちます。
Q902 と Q903 の h_{\rm FE} は等しいものとすると、
\qquad I_{\rm B(Q903)} =  \frac{I_{\rm C(Q903)}}{h_{\rm FE}}=  \frac{I_{\rm C(Q902)}}{h_{\rm FE}}=I_{\rm B(Q902)}
となり、I_{\rm B(Q903)}I_{\rm B(Q902)} のコピーとして機能することになります。
あとは、PNP トランジスタ Q904、Q905 によるカレント・ミラーで電流の絶対値は同じで方向が逆の電流に変換し、Q902 のベースに流し込みます。
他の回路方式については次回以降の記事で説明します。