ディジタル信号処理による信号発生とエイリアス(7)

これまでは、周波数領域で考えてきましたが、ここからは、時間波形で考えます。
理想のこぎり波をサンプリングしたときに、位相差が現れずに、DC オフセットが変化するだけになってしまったのは、簡単に言えば、波形が「理想的」過ぎたからです。
のこぎり波と言うよりも、ランプ (ramp) 波形と呼ぶ方がふさわしい、波形変化が急峻すぎない波形をサンプリングすれば、位相差は現れます。
下の図は、理想のこぎり波では不連続点となる立下り部が、1サンプリング周期を要して立ち下がるランプ波形のサンプリングの様子です。

前の例と同じ、1周期のサンプル数 N=11 で、立ち上がりの緩斜辺が 10 サンプリング周期幅、立下りの急斜辺が 1 サンプリング周期幅です。
いま、波形が左に微少な値 {dx} サンプルずれる、つまり、サンプリング・タイミングが dx サンプル遅くなる場合を考えると、10 サンプリング周期幅の緩斜辺側のサンプル値の合計の変化は、

  • 10 サンプリング周期幅に入るサンプル数の平均は 10
  • 波形の傾きは (+1 - (-1)) / 10 = 2/10
  • サンプル1個当りの変化は (2/10) \cdot {dx}
  • サンプル全体の合計は 10 \cdot (2/10) \cdot {dx} = 2 {dx}

となります。 一方、1サンプリング周期幅の急斜辺側は、

  • 1 サンプリング周期幅に入るサンプル数の平均は 1
  • 波形の傾きは (-1 - (+1)) / 1 = -2
  • サンプル1個、つまり合計の変化は -2{dx}

となり、波形全体では、2 dx - 2 dx = 0 となって、DC レベルに変化は現れません。
これは、別に N=11 に限ったものではなくて、急斜辺側の幅が1サンプリング周期以上あって、その寄与が結果に現れるような場合ならば、常に成り立ちます。
理想のこぎり波では、この急斜辺側が不連続点であり、その寄与が結果に現れないので、DC レベルの変化を引き起こしています。
前の図の緩斜辺側のサンプリング・ポイントを見ると、上から、緑、赤、青の順に、マーカーがくっつくようにして並んでいます。 
それに対して、急斜辺側では、上から、青、赤、緑の順にマーカーが並び、その間隔も離れていることが分かります。
下の図は、このサンプル値列から、タップ数 399 の 8 倍オーバーサンプリング・フィルタ演算により求めた波形です。

サンプリング位相により、緩斜辺側の波形が変化していますが、位相差自体は、ちゃんと現れていることが分かります。